振り返って、接吻
俺は、そう考えて、数人の女性と交際をしてきた。
そして、邪魔にならない女なんていないと知ったのだ。
「仕事と私、どっちが大事なの?」という何万回も使い古された質問。「オマエが大事に決まってるよ、でも、仕事に励む俺ごと愛してほしいな」そんな適当なことを言う俺は、悪くない恋人だと思う。
でも、そうやってなるべく俺に干渉されないように甘やかしていると、彼女たちは絶対に踏み込んでくる。
「宇田さんと仕事だけの関係じゃないよね?」「わたしより宇田さんを優先してるでしょう?」「ほんとうはわたしじゃなくて宇田さんが好きなんじゃないの?」
どんな場面であっても、こんな禁句が飛び出てきたら、俺はなるべく柔らかい言葉を選んで別れを告げる。ぜんぶが、醒める。
俺にとって、宇田凛子は聖域だ。誰にも汚されたくないし、そのことを誰にも知られたくない。
自分でさえも手袋をはめないと触れられないような、大切な場所。