振り返って、接吻

———じー、じー、じー。


情事の匂いも残っていない静かだった部屋に、バイブ音が響いた。

こんな時間に?と首を傾げながら、サイドテーブルに置かれた自分のスマホに手を伸ばす。プライベートの連絡だけを受信するそれが、夜中に震えるのは珍しい。

宇田はぐっすりと眠りについていて、神経質な俺と違って、多少の物音では起きない図太さがうかがえた。それに、やっぱり疲れているんだろうな。


俺の布団をかけて眠る宇田に奇妙な気持ちになりながら確認したメッセージは、茅根からだった。こいつ、まさかこの時間まで働いてないよね?



『夜遅くにごめんね、起きてたら電話して』



敬語を使っていないことから伝わる、プライベートな件について。というか、そんな推理がなくてもどうせ宇田のことだろ。今日の宇田は明らかにおかしかった。


オマエと話すことなんかないんですけど。そう思って知らぬふりを決め込もうとしたら、すぐに『既読つけましたねー』というメッセージが追加されて、しぶしぶベッドを降りた。



窓を開けるには風が強すぎるから、ベランダは却下。暗闇でも意外に歩ける慣れ親しんだ我が家を進み、脱衣所に着いてから電話をかけた。



『やほ、電話ありがとう、こんな時間にごめんね』

「もう切っていい?」


電話越しでも甘ったるく聞こえる声に体が重たくなって、洗面台の前に置かれた簡易的な椅子に腰かけた。こんなの宇田以外に使う人はいないと思ってたけど、なんだ、需要あったのね。初めて座った。


『あれれ、御機嫌斜めですか副社長』

「減給ね」

『パワハラだなあもうほんと』

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