振り返って、接吻
しゅんとしながら、つい、茅根には話してしまう。
「さ、そわれてはないけど、」
『由鶴くん、その美貌で鈍感とかつまんないからやめてよ?』
「いや、うっかりキスしちゃってすごく焦った」
『~~~はあ?!ピュアなの?!?!』
そうだよ、超ピュアだよ。初恋を引き摺ったまま大人になって、それでも離れられずにずっとそばで飼い慣らされてるの。滑稽なほどに純粋でしょう。
宇田さえいればよくて、宇田の言うことが絶対で、宇田こそが俺の正義。キスだけでどきどきする俺のことなんて、笑えばいいよ。
俺と宇田は、完全なる親友なんかじゃない。もっと歪んでいて、奇妙で、脆い関係だ。
俺らが仕事だけの関係なわけがない。だから、以前の恋人が言っていたことは正しいし、女性というのは相変わらず鋭い。
急に黙ってしまった俺を察してくれたのか、茅根がひとりで会話を繋げた。
『とりあえず、由鶴くんは、社長に手のひらで転がされてるといいよ』
「なにそれ」
『そうしたら、きっと、ぜんぶ上手くいくから』
こういう瞬間に、茅根は親友かもしれないって柄にもないことを考える。
だって、くやしいけど、俺も同じように信じてるからね。