振り返って、接吻


ヒールがないと頼りない脚で、ぺたぺたと朝食を食卓に運ぶ宇田。また裸足だ。床暖房って案外電気代かかるんだからね。

彼女はひとりで2人分の朝食を丁寧に並べた。皿を割ることも、ルイボスティーを零すこともなく、朝食が完成された。


「ほら、食べよ?冷めちゃうよ」


先に座って手招きするそいつは、なにを考えているのだろう。昨日の今日だというのに、なんの感情も読めない。


俺は食卓につきながら、思わず声に出してしまった。


「良い朝だ、ね」


声が震える。どうしてこんなに怯えてるんだ?

そんな俺に対して曖昧に微笑む宇田に、鳥肌がたった。


彼女はもう、わかっているんだ。
この先に起こる何かは、もう、宇田が握っている。


だって、なにもかもが完璧すぎる。


いろんな言い訳はできようにも、合意のもとになく襲った俺が迎えるにしては『良い朝』すぎるんだ。



美味しそうにホットサンドを頬張る宇田を見て、俺は生きた心地がしなかった。悪い予感がしてる。もういっそ、ひと思いにやってくれ。


「なにか言いたそうだね?」


自分で作ったくせに口もつけない俺に、宇田は呆れたように声をかけてきた。


「なにか言いたいのはオマエでしょ?」

「やだなー、駆け引きみたいなこと言わないでよ」

「俺はとっくに手の内を明かしてる」


「それもそれで趣がないね」


グラスを置いて、彼女はうちの新しいスキンケアシリーズのおかげで艶が増した頰に手を添えた。ふっくらと健康に見えるし、何よりぴかぴかと光っているような肌の煌めきがある。
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