振り返って、接吻
今晩はその商品たちのお披露目パーティーだ、ドレスコードあったよね、確かピンクだったような。そんな仕事のことを考えて気を紛らわせる。
「きょうの夜、パーティーあるじゃん?」
ちょうど考えていたことだったので驚きながら、宇田の話に頷いた。すると彼女は得意の畳み掛けるように喋り出した。
「そこで発表するから、きょうは白を着ようね」
「あれ、春夏の新作だから、ドレスコードはピンクじゃなかった?」
「うん、ネクタイでもピンクにすればいいよ。スーツはわたしのほうで用意してあるよ、あとでここに届くから」
「うん、あんまり理解できてないけど」
「大丈夫、社長に任せて」
そう言って彼女は難しい相手との取引を成功させたときみたいに嬉しそうに、そしてすでに勝利を収めたかのように笑った。
「由鶴は安心していいからね」
その言葉が耳に届くと、よく飼い慣らされた俺は、急激に食欲が湧いてきたんだ。