振り返って、接吻
昨夜の俺は人生で最も体温が上がっていると思った。宇田を押し倒したベッドの熱で、こころが火傷しそうな夜だった。
でも、今、さらに温度が上がっている気がする。これはきっと、怒り。
だって、自分の性格をよく考えてみれば、思ったことをうっかり口に出してしまったなんて軽率で生ぬるいものじゃない。そんな純粋でかわいげのある失言ではない。
俺は本当に、こうなるって予想していなかった?朝あんなに不安になっていたのに?
俺が弱いところを見せれば宇田が離れないでくれるとわかっていて、彼女から婚約を発表してくれることを期待していたんじゃないか。そんな打算的な失言だったのではないか。
揃えた白い衣装を着ている自分に、なぜか呼吸が浅くなる。動揺して脈が早いけど、周囲からは今日も冷徹な副社長に思われてるのかな。思われてるといいけど。
こつんこつんこつん。
よく知った靴音が聞こえて、俺は顔を上げた。足音だけで彼女を判別できる俺はどうかしているかもしれない。全世界宇田クイズがあったら間違いなく優勝できる。そんな恥さらし、参加しないけど。
向かいの席についた宇田は、「顔が青すぎるよ旦那様」と笑った。どうやら内情は見抜かれていたらしい。
「昨日言っておいたでしょ、驚きすぎだよ」
「俺ら、ほんとに婚約したの?」
「あとは、アナタが指輪をくれるだけかなあ」
「オマエは、俺と結婚、したいの?」
「こんなにずっと一緒にいるんだもん、結婚しても変わらないしむしろメリットしかないでしょ」
余裕のある笑みを浮かべて、俺の冷たい頬にそっと触れる暖かい指先。一瞬触れた指輪の金属がひんやりとして、肩が震えた。
宇田の言葉選びによって、欲しかった答えはあっさりとすり抜ける。