振り返って、接吻
手袋はめて触れてみる
第1話
9月の生徒会室は、ひんやりと空調で冷やされていた。名のある私立高校なだけあって、そのあたりの設備は充実している。
「こうやってふたりでゆっくりしていると、外暑いのが信じられないよねー」
学生服姿の宇田は、高い位置で括られたポニーテールを揺らして俺を振り返った。半袖のブラウスから覗く腕は白く光っていて、残暑を感じさせない。
宇田の肌は、俺のように青白いわけではなく、健康的な桜色のかかった柔らかそうな色をしている。本人いわく紫外線を吸収しやすい肌質のようで、常に日焼けを気にしていた。
宇田って、いろんなことが気になるみたいだ。
「そういえば、茅根がへんな打楽器?買ったらしくて、練習してたよ」
10月末に行われる文化祭に向けて資料を作成している俺は、当然のように生徒会長を無視を決め込んだ。そうしないと確実に絡まれる。
「由鶴くんはいつもぴりぴりしてるから、音楽のちからで癒してあげたいんだってさ。たしかにな~と思って、わたしもへんな笛買った。アフリカのほうの民族楽器なんだけど、なかなか難しいからさ、まいにち練習してるの。もうちょっと待ってね」
いや、すでに絡まれている。しかし、俺の反応なんて初めから期待していない宇田は、スピーカーのようにひとりで喋り続ける。苦痛でしかない。由鶴くんのぴりぴりの根源は間違いなくオマエたちだ。