振り返って、接吻
するとふと思い出したように、宇田が新しい話題を振ってきた。手元ではキーボードを叩きながら、よくもまあ、器用ですこと。
「ねーねー、ゆづるんに新しい彼女ができたってまじですかー?」
「ああ、うん」
「聞いたよ、大学のお色気〜なお姉さまなんでしょ?」
うちの高校は幼稚舎からのエスカレーター式だから、大学までが同じ敷地内にある。おかげで高校生と大学生が付き合うケースもたまに見られるものだ。
事実、そのときの俺の恋人は大学生だった。
「あれ、前の彼女さんも大学生だったよね?」
「そうだね」
「ゆづるんは年上好きだったのかー!まあ、大人びてるし、女子高生なんて相手にしないかんじ?」
「べつに」
別に、そうでもないよ。俺は目の前のブルーライトにあてられたまま、逃げるように睫毛を伏せた。
実際に今、俺、オマエに欲情してる。
白くほっそりとしたうなじ。鍵をかけたふたりきりの生徒会室。紫外線を防ぐために閉められたカーテン。
思春期の俺は、お膳立てされたようなその状況に毎日飽きもせず欲情していた。
そして、その欲求が溢れる前に恋人を作って、また涼しい顔をして生徒会室の鍵をかけていた。
そもそも俺は年上が好みだとかでもない。ただ、あまり近い距離に恋人という存在を置くのが良策ではないと知っているから、大学生を選んでいるだけだ。
それが恋人のためなのか、俺のためなのか、あるいは宇田のためなのか分からない。でも、俺の恋人と宇田凛子とでは、相性が良くないことは確かめなくてもわかることだ。