振り返って、接吻
あらかじめ頼んでおいたので、深月家で雇っている運転手が外で待っていた。暑いなか歩かなくて済むのは助かるなと思って、ありがたく車に乗り込む。
いくら幼馴染とはいえ、手ぶらでお邪魔するのもどうなのかと思い、宇田がお気に入りの老舗の和菓子屋で羊羹を買った。
風物詩が描かれた季節限定パッケージが売られていて、迷わずそれを選んだ。季節の変わり目にだけ売り出すこの限定品を、宇田は少しだけ楽しみにしている。
宇田はきっと丁寧に包みを開けて、そこに書いてある季節の言葉を読み上げて、絵柄を楽しむだろう。俺は幾度となく見てきたはずのそんな光景を永遠に眺めていて、それでも飽きないから嫌になる。