振り返って、接吻

俺は、脳内を整理しておける冷静な人間だと思われている。幼い頃からそうだったし、高校生になってもそう。

実際、熱量が明らかに欠落しているので、感情が爆発したりすることはない。年齢の割に落ち着いてみられるのは、そういったところだと思う。

だけど、頭も身体も俺のぜんぶは、たったひとりによって乱される。それこそ、物心ついたとからずっと、だ。


だから、やっぱり宇田のことは嫌いだ。


俺を乱してくるような宇田は嫌いだし、俺に乱されない宇田も嫌いだ。他人からどれだけ賞賛を浴びても、けっきょく宇田を超えられないから嫌いだ。




あと、やたらと目立つくせにわざわざ俺の教室に来て、しかも大した用事でもないのに俺を呼びつけるところも嫌いだ。



「ハニー、今日いっしょに帰ろー」



クラスメイトである茅根との会話が盛り上がっていたところで、俺は宇田に呼びだされて仕方なく廊下に出てきた。そして、その要件がこれだ。

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