振り返って、接吻
「は?なんで?」
「そんなに嫌?!」
「ふつうに嫌だよ、今日雨だからからだ重いし、」
オマエと話してたら余計な体力使うし無理、と言おうとして、気が付いた。
「宇田、傘忘れた?」
「ご名答」
にやりと笑うその顔はどうにも猫っぽくて、オマエもたまには捨て犬の顔でもしてみろと思った。そうしたら迷わず拾って、優しく抱きしめて、大切にしてあげるのに。
「だからあ、おねがいー!いっしょに傘入れてよーゆっづるーん」
大学付属の名門私立高校とはいえ、一般の学力で編入する人もいる。だから、車通学の生徒ばかりではないし、なんなら高校生にもなったらそんなのは一握りだ。
宇田や俺は自分の意思で、電車通学を選んでいた。でも、傘を忘れた日くらいは迎え呼んでもいいと思う。というか、雨の日は送り迎えもいっぱいいるし。
だけど、俺はそれを言わなかった。
宇田だってそんなの分かってるはずなのにわざわざ俺のところに来たわけで。
その意図を汲み取ってあげることで、俺と宇田の関係は成り立っている。
高校生の宇田は、まだ純粋で、多少は考えが読み取りやすかった。
「オマエの教室に迎えにいくから、待ってて」
本当は、俺はロッカーに置いてある折り畳み傘も含めて傘を2本持っていたけれども、それは言わないことにした。まあ、それこそ宇田は気付いているかもしれないけれど。
宇田が俺に対して恋愛感情を抱いているとは到底思えない。決して認めたくないし声に出したくは無いけれど、完全なる俺の片想いだ。
でもたまに、俺への独占欲みたいなものが垣間見える。