振り返って、接吻
屋上である確証はないけれど、そこからなら校庭全体がよく見えるはずだ。だから、まずは屋上に向かってみる。俺はこんなときでも、どこかで妙に冷静な思考を持っていた。
屋上に続く階段を駆け上がって、鍵がかかっていないドアを乱暴に開ける。ここが解錠されている時点で、ビンゴ、と思った。
「宇田は、いるの?」
息が切れているのに、やっぱり俺の声には抑揚がなくて、それがまた不気味だった。
だって、こんなにも動悸は激しいのに、外側に反映されていない。
外に出てまずはじめに、雨降ってないじゃん、と思った。
それから視線をぐるり移せば、姿勢良く学生服を着こなした小柄な女がひとりで立っていた。
俺はその女が宇田だと分かるよりも先に、吸い寄せられるように無意識のまま駆け寄って。
何か言葉を選ぶよりも早く、ただ、宇田を正面から抱きしめた。