振り返って、接吻

「ゆづはまだホームルーム中だと思います」


わたしに用事があるのだろうなと直感で察したけれど、ふつうに考えれば由鶴に会いに来たと思うのが当然なのでそう伝えた。

ゆづ、などと呼んで端々から親しさをアピールする姑息な自分をわらう。



「いえ、今日は宇田さんとお話がしたくて来たのですが、少しだけお時間いただけるでしょうか」


もっと頭悪そうな可愛いだけの女の子だったら良かったのにな。由鶴の選ぶ女の子はいつもセンスが良くて、わたしが攻撃する隙を与えてはくれない。


みんなの憧れ由鶴様の恋人を自慢げに誇示することもなく、由鶴の親に知られても決して眉を顰められないような女の子。


あーあ。この女が嫉妬に狂って、いっそのこと、わたしを酷い目に合わせてくれればいいのに。暴力でもなんでもいい。

そうしたら由鶴は間違いなくわたしを庇うし、恋人である彼女を完全な悪者にしてくれる。負傷したりすれば、由鶴は完治するまでわたしの犬になるだろう。

なんなら、由鶴には、一生直らない傷でも作ってほしい。それを言い訳にして、鎖で繋いで飼い殺したい。




そんな狂気的な思考を穏やかな微笑みで隠して、「屋上に行きませんか?」と柔らかく誘った。


ふわふわとパーマのかかった長い髪。すみれ色のロングワンピースにバレエシューズ。丁寧に施されたアイメイクは、マスカラもアイラインもブラウンでまとめているから、ナチュラルに見える。

こんなに可愛くて、由鶴のヒロインだなんて、ああ、ずるい。

< 98 / 207 >

この作品をシェア

pagetop