振り返って、接吻

屋上に向かうわたしは、にこやかな表情には似合わない仄暗いことを考えていた。すぐ後ろをついて歩く彼女がなにを考えているのかは分からないし、分かりたくもない。


だってほら、冷静に俯瞰で見れば、悪者はわたしだ。由鶴と彼女の恋愛を邪魔する、嫌な女。


幼馴染を武器にして、我儘ばかり言う気の強い女。嘘ついてバレエを休んで、デートしている由鶴を呼びつける女。

彼女の家でいちゃいちゃしているのが気に食わないから由鶴に電話をかけてみたり、当たり前って顔して由鶴を束縛する女。


本当に、わたしの醜い独占欲には反吐がでる。
でも、それを由鶴が許しているのだから、申し訳ないけどこちらの勝利だ。



「着きました、どうぞ」


生徒会長権限で解錠した屋上に出ると、高い湿度のぬるい夏風にぶつかった。まずはじめに、なんだ、雨降ってないじゃん、と思った。秋はまだ来ないみたい。


高校生にもなれば、どれだけ季節を重ねても、わたしは由鶴になれないと知っている。


由鶴と並びたいのか、彼を超えたいのか、あるいは彼になりたいのか。

どれだけのものが与えられてもずっと満たされずに、自分に足りないものを求めてしまう。そして、その足りない部分を、深月由鶴という人間は平然と生まれ持っていた。



9月の昼間はやたらと長くて、放課後になってもまだまだ明るい。

危険から守るためにフェンスに覆われた屋上は、妙な解放感と拘束感があって、ここから飛び降りてみたくなる気持ちは分からないこともないな、と他人事のように考えた。

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