妹の方が聖女に相応しいと国を追い出されましたが、隣国の王太子に見初められました。今更戻って来て欲しいなどと言われても困ります。
 アグナヴァン様は、私の言葉に首を振った。
 それは、私が言っていることがずれているということなのだろう。それは、自分でもわかっていた。今は、そういうことは言うべきではないのだろう。
 私は、彼の思いに答えを出すべきだ。様々な事情は、その後考えるべきなのだろう。

「……」

 私は、目を瞑ってゆっくりと考えていた。
 アグナヴァン様の思いにどう応えるべきか。悩んでいているのだ。

 私は、彼のことを尊敬している。素晴らしい人であると思っているのだ。
 そんな彼から王妃になって欲しいと言われたのは、正直言って嬉しい。
 彼の妻になれば、大変なことも多いだろう。しかし、それでも幸せになれると思える。

「ふふっ……」
「む……」

 そこまで考えて、私は少し笑ってしまった。
 私と彼の間には、様々な複雑な事情がある。だが、それを抜きにした場合、彼の要請を断る理由が思い浮かばなかったのだ。
 彼のような素敵な人物から婚約を申し込まれる。こんなに幸福なことは中々ないだろう。答えを迷う必要はない。
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