妹の方が聖女に相応しいと国を追い出されましたが、隣国の王太子に見初められました。今更戻って来て欲しいなどと言われても困ります。

「……一つだけ、聞いてもいいですか？」
「もちろん、なんでも答えよう」
「どうして、そこまで私にこだわるのですか？　もっと簡単な道があるというのに……」

　そこで、私は一つ聞いてみることにした。
　彼が、私にここまでこだわっている理由。それは、なんなのだろう。
　彼には、もっと楽な道があるはずだ。それなのに、頑なに私にこだわる。それは、どういうことなのだろうか。

「そこに理由などはない。私はただ、この心に従っているまでだ」
「心に従う……」
「あなたを妻にしたい。私にとって重要なのは、その心だけだ。他に考慮するべきことなどない。私は、そう考えている」
「……そうですね」

　私は、アグナヴァン様の言葉にゆっくりと頷いた。
　理由などない。それは、とてもわかりやすい理由だ。なんというか、それは少しおかしなことではあるのだが。
　改めて言われて、私はわかった。本当に、この場において様々な事情は考えなくていいのだと。