妹の方が聖女に相応しいと国を追い出されましたが、隣国の王太子に見初められました。今更戻って来て欲しいなどと言われても困ります。
 しかし、私は思考を切り替えた。今回は、あの地に暮らす民のために動くべきなのだと。
 聖女であるエルムルナ様は、この国を離れることはできない。私以外、あちらの王国の人々を救える者はいないだろう。
 きっと、アグナヴァン様やエルムルナ様はあちらの国を救いたいと思っているはずだ。そんな二人の思いを叶えるためにも、私は意識を変えるべきなのだろう。

「……エルムルナ様、私がドルマニア王国に行きます」
「フェルーナさん、ありがとうございます……」

 私が声をかけると、エルムルナ様は笑みを浮かべた。
 彼女は、期待していたのだろう。私がそう言うことを。

「……」

 一方、アグナヴァン様は深刻そうな顔をしていた。
 その表情には、私を心配しているような感情が読み取れる。
 当然のことながら、彼も私がドルマニア王国に複雑な思いを抱いているということは理解している。だから、そんな表情なのだろう。
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