妹の方が聖女に相応しいと国を追い出されましたが、隣国の王太子に見初められました。今更戻って来て欲しいなどと言われても困ります。
 宿屋の手続きは護衛達が済ましてくれているので、私は部屋に案内されるだけだ。
 私は、少しだけ安心していた。馬車での旅はそれなりに疲れる。休めるというのは、とてもありがたいことなのだ。

「失礼します」

 護衛はそう言いながら、戸を叩いた。
 その言葉に、私は少し違和感を覚える。何かがおかしいと思ったのだ。
 考えてみれば、宿屋の部屋に入るのにどうしてそんなことを言う必要があるのだろうか。何かがおかしい気がする。

「どうかしたのか?」
「フェルーナ様をお連れしました」
「……何故だ?」

 部屋の中から聞こえてきたのは、アグナヴァン様の声だった。
 どうやら、彼がこの部屋の中にいるようだ。なんだか、少し嫌な予感がしてきた。

「俺の部屋に、フェルーナ殿をどうして連れてくる?」
「お二人は婚約しているのですから、同じ部屋で過ごすのは当然であるかと」
「当然ではないだろう」
「いつまでも、そうしているつもりなのですか?」
「な、何?」
「アグナヴァン様は、奥手過ぎると思うのです」
「……そんな気遣いはいらないぞ」
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