妹の方が聖女に相応しいと国を追い出されましたが、隣国の王太子に見初められました。今更戻って来て欲しいなどと言われても困ります。
 アグナヴァン様は、少し弱々しい声をあげていた。
 彼は王子であるはずなのだが、なんというか護衛に対してたじたじだ。
 いや、それは恋愛関係のことを言われているからなのだろうか。普段は威厳がある王子だし、立場がないという訳ではないはずだ。

「部屋にベッドが二つある時点で、変だとは思っていたが、そういうことだったのか……」

 アグナヴァン様は、少し天然でもあるらしい。
 なんというか、彼の新たな一面がまた見えていた。最近は、こんなことばかりである。

「アグナヴァン様、せっかくですから同じ部屋にしましょう」
「なっ……フェルーナ殿、何を言っているのだ?」

 部屋の前で、私はアグナヴァン様にそう呼びかけた。
 その直後、戸が開き彼の顔が見えてくる。威厳ある第一王子は、とても驚いたような表情をしていた。こんな表情のアグナヴァン様は初めて見るかもしれない。

「自分が何を言っているのか、わかっているのか?」
「ええ、わかっています」
「いや、しかし……」
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