弁護士は相談料として愛を請求する
抱いてしまったことを後悔はしていない。だが、交際しようと言い出せなかった。なぜなら、俺は今、微妙な立場にいる。
姉は堂本コーポレーションの次期社長である匠さんに溺愛され、匠さんの母親は彼女の味方だ。社長である匠さんの父親は妻を溺愛している。姉は堂本コーポレーションを攻略したい人には懐柔すべき最重要人物となった。
その弟である俺を取り込みたいのは多くの企業トップが考えることだ。俺が堂本のパーティーで顧問弁護士、義理の弟として招待され、この間も多くの企業のお嬢さんを紹介された。状況の難しさに頭が痛くなった。
最初から匠さんはこれを予想していたんだろう。匠さんは策士だ。俺の交際相手をキチンとした人にしないと色々面倒になる。堂本コーポレーションの顧問弁護士事務所へ入れたのも、先々俺に変な虫がつかないよう把握するためだったのだ。
俺がそのパーティーにすずをエスコートしていけば、俺への女性の紹介が減るだろう。ただ、そういう世界にすずが向いているとは到底思えない。色んな人と社交するなんて苦手この上ない。それだから何も言えなかった。
すずの処女をもらったことを親友の涼に話していたときのこと。普段無口な涼が俺を睨んで話し出した。
「のん。お前さ、自分の気持ちにようやく気づいたのはいいけど、やり方が逆だろ。気づいてから口説いてそれからベッドだ。お前、あんなに大切にしてたすずちゃんをそんなとんでもない言い訳で食っちまって、しかも、彼女に告白もしてないって本当なのか?志穗が怒り狂ってるぞ」