その瞳に映るのは
* * *


 清水寺へ着く頃、紗菜ちゃんは私に目配せをしてきた。きっと、これからはぐれるよ、っていうサインだ。そのサインに大きく頷く。紗菜ちゃん達が離れやすいように、帷くんに歩きながら話しかける。



「帷くん! 帷くんは京都って来たことある? 私は初めてなんだよね」



「そうなんだ。熱心にガイドブック読んでたもんね。俺も仕事では来たことあるけど、プライベートでは初めてだよ」



「そっかぁ。楽しみだね」紗菜ちゃん達が離れたところで、ほっと一息つく。段々と清水寺の本殿が近づく。それに伴い、観光する人の数も増えていく。美しい紅葉がちょうど見頃で、思わず二人で足を止めて見入ってしまう。



「うっわぁ。きれいだな」



「ね。あの、ね。帷くん」と小さく声を掛けたところで、私達と同じく修学旅行生なのか制服姿の女の子達が「すみません。もしかして、高瀬帷くんですかぁ? 私達大ファンで」ときゃぴきゃぴとした声を出す。


 それに対して慣れたように「あ、はい。応援ありがとう」と応答する帷くん。



「一緒に写真撮ってもらったりとか出来ますか?」



「ごめんね。今はプライベートだから」そう返事をする帷くんは、いつものように朗らかではあるけど、どこか芸能人オーラを放っている。


 どうしよう、告白どころじゃなくなっちゃったな。せっかく意気込んだけれど、タイミングを逃したかもしれない。女の子達の目には私の姿なんて入っていないようで、いたたまれなくなってしまった私は、少し帷くん達から距離を取る。



 ぼうっと紅葉を見上げていると、肩をトントンと叩かれた。帷くんかな? と思って振り向くと、そこにいたのは帷くんではない、明らかに外国の男性二人組だった。



「Excuse me? ○△□~?」え、え、何て言ってるの? 全然聞き取れないよ。あわあわしている私を見て、その外国人男性二人組は何やら顔をにやつかせながら、私の腕をつかんで引っ張ろうとしてくる。どうしよう、嫌だ、何が起こっているの?



 パニック状態になって涙が溢れてきた時、私の前に体をすべらせるようにして、人影が割り行ってきた。その後ろ姿は何回もみてきたから分かる。



 私が大好きな人の背中だ。帷くんだ。



 帷くんは、二人組に向かって流ちょうな英語で応対している。今までに聞いたことのない低いトーンにびっくりしてしまう。そして、帷くんが話し終えると、二人組は興醒めしたかのようにその場を去って行った。
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