社内恋愛を始めたところ、腹黒上司が激甘彼氏になりまして


 ーーあれはまだ松下部長付きとして働く頃。

 私は昼食を済ませると自席で本を読んでいた。孤高を気取る訳じゃないが、恋愛やファッションについてお喋りする同僚達と過ごすのは気を遣うし、遣わせるだけ。休息とならない。

 会社には仕事をしに来ているのだから無理して仲良くなる必要もない。どの会社にもいる目立たない女子社員として過ごす。

「君は本が好きなのかい?」

 問に目線を上げる。彼は部長職を任されたばかりで昼休みを取る余裕もなく、常に忙しそう。そんな折、サンドイッチを齧りつつでも私とコミュニケーションを図ろうとするなんて上司の鑑だ。

「えぇ、まぁ」

「そうか、何かお勧めの本があれば教えてくれないかな」

「読む時間あるんですか? 読書する時間があるなら睡眠にあてた方がいいですよ」

 全くもって可愛気のない言い方をあえてする。
 社内事情に疎い私でも部長が女子社員等の憧れであると把握。部長付きなど大した立ち位置でもないのにやっかまれ、陰口を叩かれるのも珍しくない。

「あはは、君は手厳しいな。こういう時はお疲れの上司を労うのが正解だぞ」

 とか言いつつ、部長は露骨に媚びられたり下手に出られるのを嫌うのだ。
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