社内恋愛を始めたところ、腹黒上司が激甘彼氏になりまして
 であれば、私は部長に恋はしない。ここにある高鳴りも切なさも恋情へ昇華させず、憧れという言葉で誤魔化そう。
 そして部長の役に立てるよう、仕事を頑張ってみる。

 ーーこうしてクリスマスプレゼントを渡された日、私は固く決意した。
 ところが翌朝、私へ辞令が出て、ブックカバーは餞別であったと知るのだ。




(全然、眠れなかった)

 今、私は電車に揺られている。

 朝起きるなり、待ち合わせの十分前に到着するよう身支度を整え、家を出た。部長を待たせないサラリーマン精神が働いたのだーーという体にしておく。

 目的先のポップアップストアは休日となれば女性客で混み合うはず。乗客の中にも『ねぇかわ』グッズを付けている姿があり、私も膝の上に乗せた鞄へキーホルダーをつけてきた。
 もしも知り合いに遭遇した際は『ねぇかわ』好きをカミングアウトする心積もりでいる。一人で来るのが恥ずかしく部長を巻き込んだと説明しよう。

(それにしても、いい天気だなぁ)

 流れる景色がクリスマス模様になりつつある。中吊り広告はイルミネーションの特集記事を扱い、カップルが熱心に見上げていた。

 一応、私も部長と外出するのだが、デートというより同行。あんな仲睦まじい雰囲気にならない。
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