社内恋愛を始めたところ、腹黒上司が激甘彼氏になりまして



「はぁぁぁ」

 喧騒から遠のき、資料室に入るなり大きく息を吐く。
 実質ここは私の作業部屋と言ってもいい場所で会社的には物置スペース。滅多に人がやってこない。

「皆、一体何なの? 私は全然気にしてないって言ってるじゃない! 人を可哀想な目で見ないでよ!」

 強がりを展開しつつ、その場で膝を抱える。
 本当は足が震えて歩いている感覚が無かった。ただ負け犬よろしく走り去るのはプライドが許さず、必死でいつも通り振る舞う。

「ーーっ」

 毎日歩いて歩いて擦り減らしたパンプスを見下ろし、弱音と鼻を啜る。

「あー、こっちは恋愛なんかに見向きもせず仕事をやってたんだ! こんなことなら彼氏を作れば良かった、私も社内恋愛すれば良かったよ!」

 だんだん目尻が熱くなり、涙が溢れる前に天井へ吠えた。

 そして『まぁ、彼氏になってくれる相手に心当たりはないけれどね』などと自分で突っ込もうとした時だった。

「誰と?」

 ガダン、側で物音がする。

「へ?」

 ある人物が棚の隙間からヒョイッと顔を覗かせたのだ。
 若干埃っぽく、薄暗い環境下でも独特のオーラを纏う男性の登場に見開く。相変わらずこんなにも目立つのに気配を全く感じなかった。

「ま、松下部長……どうしてこちらへ?」
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