神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
シュニィがいなくなって、8日目の朝。

授業が始まる前に、俺達教員は学院長室に集まっていた。
 
そこに、夜間の捜索を終えた令月とすぐりが、黒装束の格好のまま戻ってきた。

ここ最近、毎晩この二人に夜間外出を許可して、外を探してもらっている。

子供達に捜索を頼って、大人として、教師として、非常に不甲斐ないばかりである。

俺達も頑張って探してはいるんだが、相変わらず手がかりの一つも見つけられない。

挙げ句に令月は、捜索を諦めたかのようにそんな一言を溢したのだった。

…。

…あのな、令月。

例えそう思ったとしても、言っても良いことと悪いことってもんがあるだろ。

皆考えないようにしてるのにさ。

しかし、子供というものは容赦がない。

元『終日組』の暗殺者である令月とすぐりは、特にな。

「俺もそう思う。もう探しても無駄なんじゃない?」

すぐりまで。

「あのなぁ…。見つからないからって、簡単に諦めるんじゃない」

シュニィの帰りを待っている者が、たくさんいるんだぞ。

その人達に言うつもりか?「もう探しても無駄だ」なんて。

口が裂けても言えないだろう、そんなこと。

「別に諦めろとは言ってないよ」

「じゃあ、何で…」

「ただ、一週間探して思ったんだよ。魚を見つける為に、砂漠を探してるようなものだって」

「…」

令月の例えは、俺達の心にグサリと突き刺さった。

…的確だな。

そうかもしれない。ここまで手がかりが見つからないと。

俺達は魚を見つける為に、砂漠を探しているようなものだ。

魚を見つけたいなら、海や川を探すべきなのに。

魚なんて見る影もない、不毛な砂漠を歩き回っている。

つまり、頓珍漢な場所ばっか探しているということだ。

これじゃあ一生見つかりっこない。

「すぐりも…そう思うか?」

「そーだね。俺、一週間かけて、帝都のほぼ全域に糸魔法を張り巡らせて探してみたけど…」

そんなことしてたのか。大変だったな。

「手がかりはゼロだよ。目撃情報どころか、怪しい噂の一つも聞かない。多分、もう帝都にはいないんだろーね」

「…そうか…」

シュニィはもう、帝都セレーナにはいない。

…何処に行ってしまったんだろうな、本当に。

「シュニィさんの方から、全くSOSが届かないというのも…不安になるよね」

と、心配そうな顔の天音。

シュニィの実力なら、並大抵の相手は返り討ちにされてしまうからな。

それでもなお、シュニィが自分の力で脱出していないということは…。

「もしかして…怪我をしてるのかもしれない。あるいは、全く身動きが取れない状態なのかも…」

「…そうだな。その可能性は高いな…」

シュニィの性格からして、助けに来てもらうのを黙って待っているようなことはないだろう。

自分の力で脱出する為に、常に機を伺っているはず。

それでも帰ってきていないということは、つまり自分で脱出出来る状態じゃないってことだ。

天音の言う通り怪我をしているのか、それとも…。

「生きてたら良いですけどね」

…空気を読まずに。

ナジュが、俺達の考える最悪の状況を口にした。
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