神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
…あのなぁ、ナジュ。

言うなよ。それを。

皆わざと言わないようにしてたのに。

「皆が言おうとしないから、僕が言ったんじゃないですか」

そうなのかもしれないけど。

「現実を見ましょうよ、現実を。一週間経って手がかりゼロなんですよ?いつまでも希望的観測していられる状況じゃないでしょう」

「…それは…分かるけど…」

「彼女の生死も気になりますが、私としては、誘拐した犯人の目的が気になりますね」

と、イレースが言った。

…そうだな。

一週間経って、未だにそれも分かってない。

シュニィが誘拐された理由。犯人の目的。

「今のところ、身代金の要求は無し。彼女を人質に脅しをかけてくる様子もありません」

「あぁ…そうだな」

「恐らく、人質にする為に連れ去った訳じゃないんでしょうね」

「…」

…残念ながら、その通りだ。

いっそ人質にしてくれた方が、まだマシだったかもしれない。

人質にしてくれれば、少なくともシュニィの生存は確認出来るから。

生きてるか死んでるかも分からない、というこの状態は、生殺しにされているようで辛い。

でも、それ故に…生存に望みを賭けていられるとも言える。

こんなことは考えたくないが、死体を見せつけられでもしたら、誰も冷静じゃいられないだろうから。

どうか、お願いだから無事でいて欲しい。

ちゃんと戻ってきてくれよ、シュニィ…。

「ついでに猫も探してるんだけど、全然見つからないしねー」

と、すぐり。

…あぁ…いろりのことだな?

「いろりも見つからないよな…。何処行ったんだろうな…」

「『八千歳』が糸魔法使って探して、それでも見つけられないんだから、猫ももう帝都にはいないのかもね」

「…」

シュニィも、いろりも、何処に行ってしまったんだか。

いろりの方はともかく、シュニィは戻ってきてもらわないと困るぞ。

「…シルナ、どうする?」

俺は、ずっと沈黙を保っていたシルナに声をかけた。

俺達より遥かに、失せ物の捜索に長けている令月とすぐりが、「このままの探し方じゃ駄目だ」と言っている。

アプローチの方法を変えるべきなのかもしれない。

シルナはどう思っているのだろう?

「…そうだね…」

シルナは、しばし無言で考え。

そして。

「…分かった。じゃあ私達は、聞き込み調査をしよう」

と、提案した。

聞き込み…聞き込みねぇ。

「誰に何を聞き込むんだ?」

「色々。少しでも手がかりを持ってそうな人に、手当たり次第に聞く」

…成程。

俺達もいよいよ、形振り構っていられなくなったな。
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