神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
―――――――…一方、その頃。

仲間達が、家族が、私のことを血眼にって探してくれている間。

私は相変わらず、そのコンクリートに囲まれた部屋に閉じ込められていた。

私の座ったテーブルの前に、パンとお茶、それから果物がいくつか置かれていた。

マシュリさんが持ってきてくれたものだ。

しかし、私はそれらに全く手を付けていなかった。

「そんなに警戒しなくても、毒も薬も入ってないよ」

と、マシュリさんは言った。

そういうことじゃない。

「人間は食べないと死ぬんだよね。食べた方が良いよ」

「…私は魔導師ですから、食事をする必要はありませんよ」

食事をすればエネルギーの補充にはなるけれど、一般人のように、食べなければ死ぬということはない。

それに…とてもではないが、物を食べる心境ではなかった。

「そうなんだ。…便利な身体だね」

「…」

「ずっと浮かない顔してるけど、何か言いたいことでもあるの?」

…よく言えたものですね。

言いたいことならたくさんありますよ。…あなたに届くかどうかは別にして、ですが。

「…あなたは何の為に、私をここに連れてきたんですか?」

「…」

私がここに来てから、何日が経ったのだろう。

この部屋にはカレンダーも、時計もない。窓もないから、太陽の位置で時間を把握することも出来ない。

時間の感覚がなくなって久しいが、恐らく…一週間近くは経っているんじゃないだろうか。

その間、マシュリさんは私を傷つけることはなかった。

こうして、食べ物や飲み物も持ってきてくれる。

部屋から出られないという不自由を除けば、「快適」な監禁生活と言えるのかもしれない。

でも私は、当然満足出来なかった。

出来るはずがない。

今こうしている間にも、アイナやレグルスが、アトラスさんが、私の帰りを待っている。

仲間達が、必死に私を探してくれている。

そう思うと、居ても立っても居られない気持ちになるのだ。

「…僕はただ、君にここにいて欲しいだけだよ」

と、マシュリさんは答えた。

「君は一生、ここにいるんだ。いてくれるだけで良い。何もしなくても」

「…」

「それの何が不満なの?」

…不満に決まってるじゃないですか。

そう言われて、何故私が素直に従うと思うのか。

「…私を解放してください」

私は再度、マシュリさんにそう頼んだ。

「そんなに帰りたい?」

「えぇ、帰りたいですとも。…帰りたいに決まっています」

一分、一秒でも早く帰りたい。

私には、私の帰りを待ってくれている人がいるから。

…しかし…。

「…良いね、君には。帰る場所があって」

マシュリさんは他人事のように、そう呟いた。

「…あなたにはないのですか。帰る場所は」

「僕にそんなものはないよ」

…そう、ですか。

「僕に帰る場所はない。僕はこの世に…存在してはいけない罪人なんだから」

「…」

彼の言わんとする言葉の意味は分かる。

それ故に、私は何も言えなかった。
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