神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
俺がそう言うと、ナジュは相変わらず困ったような顔をして。

「いえ…何だかちょっと…獣臭い?と言うか…」

「…」

「上手く言えないですけど、動物園の猛獣エリアにいるような気分になっただけです」

「…」

気になることがあるなら何でも言ってくれ、とは言ったが。

あまりにも予想外の意見が出てきて、返答に困った。

動物園の…猛獣エリア…?

悪い。ちょっと言ってる意味がよく分からん。

「あ、済みません。やっぱり言わなければ良かったです」

「いや、それは違う。お前が悪い訳じゃないから」

言えって言ったのは俺だからな。

率直に話してくれて、それはとても有り難いんだが…。

ただ、俺がよく意味を理解出来なかっただけだ。

「…どうだ?獣の匂い、するか?」

ジュリスが、他の大隊長達に尋ねた。

俺も改めて、部屋の空気を深く吸って確かめる。

獣臭い…獣臭いか?

「…シルナ、どう思う?」

「うーん…。むしろ良い匂いだと思うけど」

シュニィが部屋に置いている芳香剤の匂いだな。

あとは…。

「強いて言うなら、シルナの加齢臭がするだけで…。獣臭い匂いは分からないな」

「えっ、加齢臭…!?私の!?」

うるせぇ。

「俺もよく分からん」

「私も…何も感じませんね」

他の大隊長達もそう答えた。

うーん。駄目か。

この中で獣臭い(?)匂いを感じたのは、ナジュだけのようだ。

「あぁ、はい…。やっぱり、僕の勘違いかもしれません」

「いや、お前が嘘ついてるとは思ってないからな」

嗅覚って、かなり敏感な五感の一つだからな。

ナジュだけ感じて、俺達には感じない匂いがあったのかも…。

「…って言うか、仮にシュニィがペットを飼ってたとしてさ」

キュレムが腕を組んで、そう呟いた。

「それとこれと、何の関係があるんだ?」

「…まぁ、確かに」

シュニィがペットを飼っていようと飼っていまいと、誘拐事件に直結する情報にはならない。

だから何?状態。

謎は深まるばかりである。

「…だが、ベリクリーデも結構…変なこと言ってたからな」

ジュリスが言った。

「あいつの証言と組み合わせると、何か分かるかもしれない」

「ベリクリーデは何て言ってたんだ?」

「あぁ。誘拐犯のことを『凄く悪い人』だって言ってた」

…。

…あ、そう。

そりゃ人を誘拐するくらいなんだから、悪い人だろうよ。

しかし、ジュリスは更に気になることを言った。

「それも、『この世に存在してはいけない』レベルの悪人なんだそうだ」

「…え…?」

この世に…って、そりゃかなり…過激な言い方だな。

「ベリクリーデが人に対してそんな言葉を使うなんて、珍しいな」

「俺もそう思う。あいつは頓珍漢だが、人を憎むような奴じゃない」

きっぱりと言い切るジュリス。

ベリクリーデの相棒であるジュリスがそう言うのだから、説得力がある。
< 119 / 699 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop