神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
令月とすぐりが出掛けた、その10分後。

「こんにちは、学院長先生」

「来ましたよー」

天音とナジュの二人が、学院長室にやって来た。

「おぉ、二人共いらっしゃい!」

すかさず、シルナが食い気味に目を輝かせた。

「な、何ですか?」

「チョコドーナツあるんだよ!はいっ。二人にもあげるね」

「あ、はい…。ありがとうございます」

「どういたしまして!」

良かったな、シルナ。やっとドーナツ食べてくれる人が来てくれて。

「美味しい?ドーナツ美味しい?」

「あ、はい…。ありがとうございます…」

親切の押し売りじゃねぇか。

…すると、そのとき。

天音が、どうも不思議そうな顔しているのに気づいた。

「…どうした、天音。なんかおかしなものでも入ってたか?」

「え?いや、そうじゃなくて…」 

「二人共、何でここにいるんだろう?って思ってるんですよ。天音さんは」

チョコドーナツをもぐもぐしながら、心を読んだナジュが天音の心の中を代弁してくれた。

は?

「何のことだ?」

「え、いや…学院長先生も羽久さんも、さっき門の外に行ってたのに、もう帰ってきたのかと思って」

「…」

それって…もしかして。

「保健室の窓から見えたんだよ。学院長先生と羽久さんが、二人で校門を出ていくところ…。何処行くんだろうと思って…」

「…」

「もう帰ってきたんですか?」

…さては、天音が言ってるのは…。

…準備時間が少なくて再現度が低いと言っていたが。

少なくとも、天音の目を騙すくらいの再現度はあったらしいな。

「天音、それ偽物だ」

「えっ、偽物?」

「令月とすぐりの二人が、俺達の変装をして出掛けたらしい。さっきまであいつら、ここにいたんだよ」

「は、はぁ…。そうなんだ。変装…してまで、何処に行ったんだろう…?」

さぁな、俺も知りたい。切実に。

俺の格好で悪さをしてくれるなよ。俺が罪に問われることになったら、目も当てられない。

「猫の餌でも買いに行ったんでしょう、二人共」

と、ナジュがポツリと言った。
 
何だと?

また猫…?

「どうも二人共、数人の女子生徒と隠れて野良猫を飼ってるらしくて。心の中を覗いたときに…」

「ナジュ、それどういうこと…」

どうやら読心魔法のお陰で、詳しいことを知っているらしいナジュに。

事の次第を尋ねようとしたら。

「失礼しますよ、学院長」

不満顔のイレースが、学院長室にやって来た。

イレースが眉間に皺を寄せているのを見ると、自分が怒られるんじゃないかってビビる。

「あ、イレースちゃんいらっしゃい!丁度良いところに!チョコドーナツがあっ、」

「これ、今日届いた書類です。目を通しておいてくださいね」

「え、あ、うん。分かった、それは分かったけど。でもその前にチョコドーナツを食べっ、」 

「丁度良かった。そこの読心色ボケ教師」

イレースはシルナを徹底的に無視して、ナジュの方を向いた。

「…え?それもしかして僕のことですか?」

「あなた以外に誰がいるんです」

「失敬な!僕はルーデュニア聖王国1の真面目な教師で…」

お前が王国1の真面目教師だって?

何の冗談だろうな。聞こえなかったことにするよ。

「!羽久さんまで…」

「良いから、聞きなさい。最近一部の生徒の様子がおかしいように思うのですが」

と、イレースが言った。
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