神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
ナジュはこの部屋を「獣臭い」と言い。

ベリクリーデは、犯人を「この世に存在してはならない悪人」だと言った。

この二つの証言を掛け合せても、残念ながら俺には何も見えてこないのだが…。

これも、シュニィ誘拐犯の正体に近づく手がかり…。…なんだろうか?

手がかりを得ているつもりが、ますます謎が深まるばかりである。

「…」

一同が無言になってしまった、そのとき。

良い意味で、空気を読まない者が現れた。

「おうおう、何だ何だお前ら。辛気臭い顔が揃ってるな」

何者かと身構えたが、その必要はなかった。

「あ、ベルフェゴール…」

吐月の契約召喚魔であるベルフェゴールが、ひょこっと姿を現した。

ちっこいから分かんなかったよ。

なんて、本人に言ったら怒るから言わないが…。

ベルフェゴールは吐月の頭の上に、ちょこん、と乗った。

可愛らしい。

手のひらサイズの小さなコウモリにしか見えないが、このベルフェゴールは冥界最上位の魔物と呼ばれている。

非常に強力な力を持っているのだが、しかし如何せんサイズがちっこいものだから、あまり威厳が…。

って、やはり本人には言えないから黙ってるが。

こう見えて、戦闘のときになったらめちゃくちゃ頼りになるから。

人(魔物)を見かけで判断しちゃ駄目だな。

「ちょっと今…色々行き詰まってて、大変なんだよ」

「ほう?何だ?俺様がズバッと解決してやろうか?」

頼もしい助っ人が現れたものだ。

本当に頼りになるかどうかは別にして、暗くなりかけていた雲行きを、少しでも晴らしてくれるのは有り難い。

あんまり気を滅入らせていても、それでシュニィが見つかる訳じゃないからな。

「誰かに連れ去られたシュニィを、今、皆で探してるんだ」

と、簡単に説明する吐月。

「連れ去られた?誰に連れ去られたんだ?」

「それが分からなくて…。急にいなくなったから」

「じゃあ、何で『連れ去られた』って分かるんだ?家出かもしれないだろ?」

そうなんだけど。

でもそうじゃないんだよ。

「シュニィが家出をする理由はないし、家出にしては不自然だからだよ」

「ふーん…。成程、それで皆大挙して探してるんだな。ご苦労なこった」

全くだよ。

「そんな他人事みたいに言わないでよ。何としてもシュニィを見つけたくて、皆必死なんだから」

と、たしなめる吐月である。

俺達では、とても冥界最上位の魔物に意見出来ないが。

契約者である吐月だけは、ベルフェゴールと対等に話が出来る。

あんなにちっこくて可愛い見た目だが、冥界では凄く偉い立場なんだぞ、あれで。

あれでって言ったら失礼かもしれないけど。

「ふむ。なら俺様が力を貸してやるとするかな!」

「うん、ありがとう」

…という、その気持ちは嬉しいんだが。

…でも、ベルフェゴールがどうやって、シュニィを探してくれるんだろう?

口には出さないけど、皆同じ疑問を抱いたに違いない。

「俺様に任せれば、何でも華麗に解決…、」

小さな羽根をパタパタと羽ばたかせ、意気揚々と吐月の頭の上に飛び乗ったベルフェゴールは。

その可愛らしい体躯に似合わず、自信たっぷりにそう言った…、

…そのときだった。

「…え?」

パタパタ動いていたベルフェゴールの羽根が、突如としてピタリと制止した。
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