神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「リリス…。話してもらえませんか?」

答えたくないと思っている相手に、無理矢理聞くのはよろしくないかもしれないが。

でも、必ずシュニィさんを帰らせると、幼女と約束しちゃいましたからね。

イケメンカリスマ教師は、約束を守りますよ。

少なくとも、僕に出来る努力は何でもしましょう。 

「…それは…」

しかし、なおもリリスは言い淀んでいた。

僕に警告はしてくれるのに、何故警告するのかについては話せない、と?

「お願いです、リリス。人一人の命が懸かってるんです」

リリスは現実世界で、僕と同じものを見て、同じものを聞いている。

だから、僕達の置かれた今の状況については、リリスも承知しているはずだ。

誰もがシュニィさんを取り戻す為に、必死になっている。

この僕だってそうだ。

リリスが何か知っているなら、教えて欲しい。

「…分かってるよ。それは分かってる…」

「だったら…」

「でも…でも、駄目なんだよ。『アレ』は…人が話題にするようなことじゃないの」

「…」

「触れちゃいけないことなんだよ。関わったら、何が起きるか分からない…」

…成程。

それは確かに危険ですね。

「関わるも何も…。…既に関わってしまっているのでは?」

「それは…そうなんだけど。でも、蛇が出ると分かってる藪を、無理につつく必要はないと思うんだ」

リリスの言ってることはもっともですね。

でも僕は、蛇の出る藪を見つけたら、とりあえずつっつきたくなるタイプなんで。

「リリス、お忘れですか?僕は不死身ですよ。何が出てきたとしても、僕に恐れるものはありません」

どんな猛毒を持った大蛇が出てこようと、僕をどうにかすることは出来ない。

安心して、藪をつっつき回せば良い…と思うのだが?

しかし。

「ナジュ君は大丈夫でも…。他の皆はそうじゃないでしょ?」

…まぁ、そうですね。

「そんなに危険なんですか」

「危険だよ。人が触れちゃ駄目なの」

「学院長や羽久さん達は、そりゃ不死身ではありませんけど、僕より遥かに優秀な魔導師ですよ?それでも危険なんですか」

リリスは僕の質問に、こくりと頷いてみせた。

…成程、そうですか。

それでリリスは、頑なに詳細を説明してくれないんですね。

「…それは…冥界絡みの話ですか?獣とか罪人とか、僕にはさっぱりなんですが」

「…駄目だよ、ナジュ君。詮索しちゃいけない」

「虎穴に入らずんば虎子を得ず、なので」

それでシュニィさんが戻ってくるなら、皆さん喜んで虎穴にも飛び込むと思うんですがね。

あのアトラスさんって人は、特に。

…しかし。

「これ以上は駄目。話せないよ」

リリスは首を振ってそう言った。

…そうですか。

「関わっちゃ駄目なの。今すぐ手を引いて、お願い。私、ナジュ君を危険に晒したくないんだよ…」

「…」

「…このことは、もう忘れて。ね、お願いだから」

「…分かりました」

好きな女の子に「お願い」されて、断れるはずがありませんからね。

ここはリリスに従って、素直に引きますよ。





…今は、ね。
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