神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
…一部の生徒の様子がおかしい?

「特に女子生徒ですね。どうも隠し事をしているような素振りが見られます」

そうなのか?

俺にはそんな風には…。って、それは俺の目が節穴なのか?

すると、無視されていたシルナも、ここぞとばかりに会話に割り込んできた。

「分かる!私も気になってたんだよ。最近放課後にお菓子食べに来てくれる生徒が減ってて!」

「そんなことはどうでも良いんです」

一喝されてんぞ。

「問い詰めても、のらりくらりと躱すだけ。この私に隠し事とは、良い度胸です」

イレースに問い詰められるとは。怖かったろうな、その生徒。

俺だって怖いよ。

「あなたなら、その悪趣味な読心魔法で何か分かってるんじゃないんですか」

「えー…?悪趣味とか言う人に教える義理はないですね、いたたたたた」

「何かおっしゃいましたか?」

イレースは、ナジュの耳を握り潰さんばかりに引っ張った。

痛そう。

やめとけって。イレースを怒らせて、良いことなんか何もないぞ。

「あ、あのさ…」

と、天音が割って入った。

「生徒が隠し事…してるのかは分からないけど、本当に隠し事があるんだとして、それを僕達が探るのは余計なお世話なんじゃないかな」

「何です?」

「だって…思春期の子供なら、隠し事の一つや二つあるのは当たり前だよ。大人に隠しておきたいことだってあるはずだよ」

さすがは保健室の先生。

生徒の気持ちをよく分かっている。

「それを無理矢理聞き出すのはどうかと思うよ…」

「…ふん。大人に知られて困るようなことなら、最初からしなければ良いんです」

いや、それはまぁそうなんだけどさ。

「学業に支障がないなら、放っておいて良いんじゃないかな」

「そんな悠長なことを言って、彼女らがもし犯罪行為に手を染めていたはどうするんです?」

「はっ…犯罪…そこまでするかな…?」

…ないと信じたいけどな。

シルナもびっくりしたのか、チョコドーナツを食べる手が止まっていた。

どうでも良いけどお前、そのドーナツもう何個目?

食い過ぎだろ。ドーナツってカロリー高いんだぞ。

すると。

「別に大丈夫ですよ」

紅茶のティーカップを傾けながら、ナジュがそう言った。

「何が大丈夫なんだ?」

「イーニシュフェルト魔導学院の生徒は、良くも悪くも『良い子ちゃん』ですから。悪いことする度胸も知恵もないですよ」

…それは褒めてるのか、貶しているのか。

言われてみれば確かに、在学中に警察のお世話になった生徒って…。

これまでの学院の歴史を紐解いてみても、数えるほどしかいないんだよな。

令月とすぐりは特殊ケース過ぎるので例外ってことで。

「どうせ大したことじゃないんだから、放置で良いと思いますよ」

「…呑気なことを。大したことではなくても、それに気を取られて学業を疎かにするなら、厳しく追及すべきです」

イレースの意見もごもっともなんだけど。

「ただでさえ近頃、幽霊騒ぎだの何だので、生徒達が浮ついているというのに…」

原因はそれか。

「とりあえず…今は様子見ってことにしようぜ」

イレースの意見も頷けるが、天音やナジュの意見もごもっともだからな。

生徒の方から何かアクションがあるまでは、もう少し様子を見よう…。
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