神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
――――――…ルシェリート宅を訪ねた、その翌日。





「…シュニィちゃん、今頃どうしてるかな…」

皿の上のチョコケーキを、フォークの先でツンツンつっつきながら。

何とも行儀の悪いシルナは、机に突っ伏してそう呟いた。

昨日のアイナの方が、余程お行儀良かったぞ。

あの子本当良い子だよな。爪の垢を煎じて、シルナに飲ませてやりたい。

「…シュニィのことだ。今もきっと、何とか脱出する方法を探ってるはずだよ」

昨日アイナに会って、俺は確信したからな。

あんな良い子が待ってるのに、シュニィが諦めるはずがない。

シュニィもきっと今頃、諦めずに戻ってくる手段を探してるはずだ。

「そうだよね…!うん、そうに決まってる」

シルナはそう言って、ガバっと起き上がった。

ちょっと元気が出たらしいぞ。

「私達がくよくよしてたら駄目だよね!よし、景気づけにこのケーキを食べて、そして元気を出そう!」

「アイナはケーキを我慢出来るのにな。お前と来たら…」

「あー聞こえない聞こえなーい。私なーんにも聞こえなーい」

これが大人の態度か?とても信じられん。

アイナの方がよっぽど大人だ。

「のんびりしてる場合じゃないだろ。とにかく、少しでも手がかりを…」

と、俺が言いかけたそのとき。

「お邪魔しまーす」

「え?」

学院長室の扉が開いて、ナジュが入ってきた。

…。

…お前、何でここにいるんだ?

これには、シルナもびっくりして手が止まっていた。

「突然の英雄の凱旋に驚いているようですね」

誰が英雄だって?

「いや、お前…。…授業は?」

今、実技授業の時間じゃないの?

何でここにいるんだ。

「授業は…自習にしてきました」

何故?

「まともに授業やれよ。何で自習なんだ?」

授業サボってこんなところにいるって知られたら、イレースにぶっ飛ばされるぞ。

鬼教官が怖くないのか。

「鬼教官は怖いですけど。でも、鬼の居ぬ間に洗濯しようと思いまして」

「は…?」

「単刀直入に言いますね。…シュニィさんを誘拐した犯人の正体、分かったかもしれません」

「…!?」

俺もシルナも、互いに驚愕のあまり顔を見合わせた。
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