神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
冥界にいれば、魔物でも人間でもないバケモノだと迫害され。

かと言って現世にいても、今度はまた、異形のバケモノだと迫害される。

マシュリさんの居場所は、何処にもない。

だからこそ、アーリヤット皇国皇王直属軍に…『HOME』に招き入れられ。

例え不本意な命令でも、黙って従っている。

…それ以外に、マシュリさんが「居ても良い」場所がないから。

なんて悲しい話なんでしょう。

「アーリヤット皇王は、『HOME』に居ても良いと言った」

マシュリさんは、ポツリとそう溢した。

「天下の何処にも僕の居場所はないけど、命令に従って役に立つなら、『HOME』に居ても良いと」

「…それは…」

「役目を果たせず、『HOME』からも追い出されたら、僕にはもう…本当に、何処にも居場所がない」

そう呟くマシュリさんの顔は、今にも泣き出しそうで。

それはまるで、小さい子供が親を求めて泣きべそをかいているかのようで。

私は、堪らない気持ちになった。

…どうしてなんですか。

どうして、何の罪もないマシュリさんが「罪人」の汚名を着せられ。

異形の姿を背負わされ、誰からも石を投げられ、唾を吐きかけられて。

居場所を求めて、一人ぼっちで彷徨わなければならないのか。

マシュリさんが何をしたと言うんですか?

彼は何も…何も悪いことなんてしてないのに。

「お願いだよ、シュニィ・ルシェリート。君はここにいてくれ。…君を傷つけたりはしないから」

マシュリさんは、私にそう懇願した。

「皇王は君を捕らえることで、聖魔騎士団を弱体化させるのが目的なんだ。その目的さえ果たせれば、君を殺す必要はない」

「…」

「僕も、自分の使命を果たせる。居場所を失わずに済むんだ。…だから、君はここにいて欲しい。悪いようにはしないと約束するから」

…そんな顔で、そんな泣きそうな顔で頼まれたら。

私とて、「嫌です」とは言えなかった。

だって私が逃げたら、マシュリさんはナツキ様に「役立たず」の烙印を押されてしまう。

結果、マシュリさんは『HOME』から追い出され、また居場所をなくしてしまう…。

…行く宛もなく、一人で彷徨う辛さと苦しさを、私はよく知っている。

知っているからこそ、マシュリさんにその重荷を背負わせたくはなかった。

…けれど。

そういう訳にはいかなかった。

だって、私はもう…一人だけの命ではない。

こんな私を、今も愛してくれる人がいるのだから。

「…それは出来ません、マシュリさん」

故に、私はきっぱりとそう答えた。

ごめんなさい、マシュリさん。

私は、あなたの言うことに従う訳にはいかないのです。
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