神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「…」

マシュリさんは表情を固くして、私を見つめた。

…ごめんなさい、本当に。

あなたを傷つけたい訳ではないんです。

あなたが憎い訳でもありません。

それでマシュリさんの居場所が守られるなら、私に出来ることは何でもしてあげたい。

本当に、そう思っているんです。

でも…でも、マシュリさんの頼みだとしても、私は大人しく捕らわれている訳にはいかない。

「私には…帰る場所があります。私の帰りを待ってくれている人のところに、帰らなければならないんです」

「…それは、僕に対する嫌味?帰る場所のない僕に…」

「…いいえ、そんなつもりはありません」

マシュリさんを助けてあげられるのなら、私だってそうしたい。
 
でも、出来ないんです。

「私は私の居場所を守らなければならない。…あなたと同じように」

マシュリさんが、必死に自分の居場所を守ろうとしているのと同じ。

私もまた、自分の大事な居場所を守りたいんです。

…そして。

「あなたにも見つけられるはずです、マシュリさん。あなたの本当の居場所が」

「…何?」

他に行く場所がないから仕方なく、じゃなくて。

心から、ここに居たいと思える居場所。

私がそんな居場所を見つけられたように、マシュリさんにも見つけられるはずだ。

だから私は、再度、マシュリさんに手を差し伸べた。

何度でも、手を差し伸べましょう。

マシュリさんがこの手を取ってくれるまで、何度でも。

「一緒に行きましょう。あなたの居場所を作る為に」

「…」

マシュリさんは、驚いた顔で私を見上げた。
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