神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
――――――…僕は一体、何をやっているんだろう。

目の前の彼女を…シュニィ・ルシェリートを誘拐して閉じ込めてから、およそ10日間。

その間ずっと僕は、自問自答し続けていた。

…いや、この10日間に始まったことではないか。

何をやってるんだろう、僕は。

こんなことをしたって、僕がバケモノである事実は変わらない。罪人である事実は変わらないのに。

分かってる。僕はただ、この胸にぽっかりと空いた穴を埋めて欲しかったのだ。

誰でも良い、何でも良いから。

アルデン人である彼女なら、僕の気持ちを理解してくれると思った。

虐げられた者の気持ちは、同じく虐げられた者にしか分からないから。

でも、彼女は僕とは違っていた。

話してみて分かった。

彼女は、僕が到底手に入れることの出来ないものを持っている。

帰るべき場所。温かい家族。受け入れてくれる仲間。

いずれも、僕には決して手に入らないものだ。

羨ましくないと言ったら、嘘になる。

僕がこれまでずっと望んできたものを…望んでも手に入らないものを…彼女は持っているのだから。

僕と同じく、迫害されるべき人間であるはずなのに…。

…いや、そうじゃないのかもしれない。

シュニィ・ルシェリートは迫害されていると、勝手にそう思っていただけで。

所詮彼女は人間で、人間は結局、同じ人間を悪意なく迫害することはない。

…そういうことなのかもしれない。

僕とは違う。

この世に誰も味方なんていない。同族も同種も、家族もいない、罪を背負った僕とは。

結局僕の気持ちを理解出来る人なんて、この世の何処にもいないのだ…。

ほんの少しでも、シュニィ・ルシェリートが僕の苦しみを理解してくれるなんて。 

そう思い込んでいた自分が、酷く滑稽で…虚しかった。

…それなのに彼女は、僕に甘っちょろい綺麗事をぶつけてきた。

それらの甘美な言葉の数々に、僕は既視感を覚えていた。
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