神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
昔、今のシュニィ・ルシェリートが言ったのと同じことを言われたことがある。

もう何年も…何千年も前の話。

あの頃も僕は、冥界にも現世にもいられなくて、ふらふらと放浪の旅を続けていた。

天下の何処にも、僕の居て良い場所なんてない。

そんな深い孤独の中で、一人で生きてきた。

スクルトという名の少女に出会ったのは、現世でとある紛争地帯を彷徨っていたときだった。

長きに渡る戦争のせいで、その地方一帯はほとんど焦土と化していて。

何処もかしこも荒廃して、でも僕のようなバケモノが紛れ込むには、うってつけだった。

避難民のキャンプのようなところで、一人、道端に椅子と小さなテーブルを置いて、そこに座っていた。




「ねぇ、そこのあなた」

唐突に声をかけられて、僕は振り向いた。

周りに誰もいないのを確認して、彼女…スクルトが僕に声をかけたのだということを察した。

「…僕のこと?」

「そう、あなたよ」

「…」

「少し、話していかない?」

最初に会ったとき、スクルトは僕にそう言った。

でもそのとき、僕は内心迷惑だった。

スクルトは当時、俗に言うジプシーの少女だった。

彼女もまた行く宛がなく、戦争で家族と仲間を失い、一人で難民キャンプを転々としながら、占いをして日銭を稼いでいた。

スクルトに限らず、あのときはそんな風に暮らしている人がたくさんいた。

でも、僕は占いを信じるタチではなかった。

もっともらしいことを言って、人を騙すインチキ占い師。

最初スクルトを見たときは、そんな印象だった。

確かにあの当時、そんなインチキ占い師は何処にでもいた。

しかし、スクルトは別だった。

彼女の占いは、インチキではなかったのだ。

勿論、最初に出会ったその当初、僕はそんなことを知る由もなかったのだが。

「話すって…何を?」

スクルトの容貌は、正しく占い師そのものだった。

頭をスカーフで覆い、薄汚れたローブのような、裾の長い黒いコートを着ていた。

何より特徴的だったのは、スクルトの顔。

彼女は、スカーフのようなもので両眼をぐるぐると覆っていた。

スクルトは、目が見えなかったのである。

後で知ったことだが、これは生まれつきだそうだ。

でも、目が見えないというハンデは、スクルトにとってそれほど重い枷ではなかった。

何故ならスクルトは、目が見えない代わりに、他の五感がとても優れていたから。

彼女は驚くほど耳が良く、そして嗅覚も非常に優れていた。

目が見えないはずなのに、人の気配を感じたら、それが誰なのか100%の確率で言い当てることが出来た。

それに、何より。

目が見えない代わりに、スクルトには常人に見えないものを見ることが出来た。

それこそ、スクルトが占いで言い当てたものだった。

とても不思議な少女だった。

…本当に、不思議な人だったのだ。
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