神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「話すって…何を?」

しかし、当時の僕は、そんなスクルトの秘密をまだ知らなかった。

何せ最初に見たときは、インチキ占い師だと思い込んでいたのだから。

今となって思えば、とんでもない誤解である。

「座って。…大丈夫、お金は取らないから」

「…」

…別に、金銭の問題ではないのだが。

そのまま無視して行こうかと思ったが、僕はスクルトの指示に従って、彼女の正面の椅子に腰を下ろした。

興味が湧いたから?

違う。

ただ、目の前の「インチキ占い師」が、このバケモノを見抜くことが出来るのかどうか…試してやろうと思っただけだ。

だから。

「…あなた、人間じゃないわね」

最初に一言、スクルトがそう言ったとき。

僕は、思わず度肝を抜かれたのである。

正直に言って、僕はゾッとした。

重大な秘密を暴かれたかのような…心を丸裸にされたような気分だった。

「な…何を言って…」

「隠さなくても良いわ。…すぐに分かったの。あなたの気配…人間のものじゃなかった」

「…」

僕はそのとき、気がついた。

本当に目が見えないのなら、僕がここにいることを把握出来るはずがない。

僕は人間ではない。魔物の血を引くバケモノだ。

人間は魔物の気配を感じることは出来ない。

シュニィ・ルシェリートが、僕の姿を実際に目で見るまで、部屋に侵入されたことに気づかなかったのはそのせいだ。

もっと言うなら、今もシュニィ・ルシェリートを探している探索魔法使いが、僕を見つけられないのも同じ理由だ。

人間を探すのと同じように、魔物を探すことは出来ない。

魔物は人間とは違う生き物だから。

…話を戻そう。

スクルトは両目を隠していて、彼女には僕の姿が見えないはずだ。

それなのに、僕の…魔物の気配を察知して、僕に声をかけた。

「インチキ占い師」に出来る芸当ではない。

そのときようやく僕は、目の前の少女がただ者ではないと気がついたのだった。

「あなたは何なの?…何処か獣の匂いがする」

「…僕は…魔物だ」

彼女が魔物を知っているかどうかは別にして、僕は素直にそう言った。

「…魔物?」

「そう…。この世の生き物じゃない。冥界から来た魔物…」

「そうなの。それで、人間の気配じゃないのね」

スクルトは、驚くほど静かだった。

それはどういうことだ、とか。冥界って何だ、とかは聞かなかった。

彼女の肝の太さは、今思い出しても感嘆に値する。

「…驚かないの?」

「そうね。この世には、人知を超えた力や生き物が存在している…。あなたはその類の種族なんでしょう?」

「…それは…」

「それだけの話よ」

スクルトは僕が魔物であるという事実を、たったそれだけの言葉で納得してしまった。

物分かりが良い…という次元ではない。

「それにね、分かってたから」

「…分かってた?」

「えぇ。今日ここであなたと会うことを、私は分かってた。『赤』だったから」

「…?」

スクルトが何を言っているのか、当時の僕には全く分からなかった。

彼女が言うことの意味を理解するのは、もっと先の話である。
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