神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「…君はここで何をしてるの?」

今度は、自分からそう尋ねた。

「何も。ただこうしていれば、たまに物好きがお金を落としてくれるから、そういう人を相手に占ってるだけ」

やはり占い師だったのか。

…どうやら、インチキではなさそうだが。

「…一人で?」

「えぇ、一人よ。…家族も仲間も、知り合いも…皆戦争で死んでしまったから」

「…」

一人…。

「…あなたもそうなの?」

スクルトが僕に聞いた。

「…そうだよ。…見ての通り、僕はバケモノだから」

誰もバケモノと一緒に生きることは出来ない。

だから、僕はこれまでずっと一人で生きてきた。

「私もそうよ」

それなのに。

スクルトは当たり前のことのように、さらりとそう言った。

「私は…バケモノだから。家族や仲間達からも、ずっと気味悪がられていたの」

…バケモノ。

スクルトもまた、自分のことをバケモノだと言った。

図らずも、バケモノとバケモノが出会ってしまったのだ。

…そして。

「でも、あなたもバケモノなら…私と同じね」

「…怖くないの?僕が…」

「えぇ。私も負けないくらいバケモノなんだもの。バケモノはバケモノを恐れないわ。…そうでしょ?」

それは、とても単純で馬鹿馬鹿しい理屈だった。

バケモノと人間は、一緒にはいられない。

でも、同じくバケモノだったら?

バケモノとバケモノなら、お互いを恐れたり気味悪がったりしない。

だから…一緒にいても怖くない。

その、あまりに馬鹿馬鹿しい理屈に気づいたとき。

僕は思わず、笑ってしまいそうになった。

…しかし、その馬鹿馬鹿しい理屈が。

僕とスクルトを結びつける理由になったのだ。

僕達だけは、お互いを恐れない。お互いを理解出来る。

だから僕達はそのときから、決して離れない磁石のように惹き付けられた。

バケモノとバケモノが一緒にいれば、もう孤独ではない。

このときから僕達は、一人ではなく二人になった。
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