神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
僕達はこれまで、ずっと誰からも忌み嫌われ、気味悪がられて生きてきた。

そんなはみだし者同士が一緒にいるのは、非常に理に適っていた。

僕はスクルトの不思議な力を恐れなかった。

スクルトもまた、僕の正体を知っても恐れなかった。

僕がケルベロスと人間のキメラであることを知っても。それどころか…罪人であることを知っても。

ただ一言、それがどうしたと言わんばかりに、「そうなのね」と言ったきり。

僕もそうだった。

スクルトには、常人では有り得ない力があった。

目が見えない、戦災孤児であるスクルトが、これまで一人で生きてこられたのは。

スクルトが持つ、その不思議な力のお陰だった。

その力について、スクルトに詳しく聞いたのは。

彼女と一緒にいるようになって、しばらく経った頃のこと。

うんざりするほど長く続いている戦争が、いつ終わるのだろうかと僕がポツリと溢したとき。

スクルトは、平然としてこう言ったのだ。





「…戦争?…いいえ、まだ終わらないわよ。あと50年は続くわ」

あまりにも当たり前のことのように言うものだから、僕は面食らってしまった。

「…まるで見てきたように言うんだね」

これほど長く続く戦乱なのだから、今すぐには終わらないだろうとは思うが。

その50年という数字は、何処から出てきたのか。

何か根拠でもあるのだろうか。

…すると。

「えぇ、『見て』きたから」

相変わらずスクルトは、事も無げにそう言った。

…「見た」?

言葉通り、実際目にしたという意味ではないことは分かった。

何せスクルトの両眼は盲目で、今もスカーフで覆って隠しているのだから。

それなのに「見た」と言うのは、一体どういう意味なのか…。

「スクルト…?」

「…私ね、未来を見ることが出来るの」

スクルトが「バケモノ」と罵られ、ずっと迫害されてきた理由。

そして、そんな一人ぼっちのスクルトが、これまで戦火の中を潜り抜けて生きてこられた理由。

それは、スクルトの持つ未来視の能力故であった。

初めてスクルトに、その能力について打ち明けられたとき。

僕は酷く冷静で、意外にあまり驚かなかったことを覚えている。

バケモノはバケモノを恐れないものである。
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