神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「あなたとの出会いも、未来を見て知っていたのよ」

と、スクルトは教えてくれた。

「それも、『赤い』未来だった。だからあの日、私達はどうあっても出会う運命だったのよ」

「…そうだったんだ」

「それと同じで…この戦争の行く末も、まだまだ続くわ。少なくとも50年先までは『赤』…いや、『オレンジ』くらいかしら」

つまり、戦争が50年先も続いているのは、ほぼ確定の未来という訳か。

それは…あまり知りたくない未来だったかもしれない。

いや、あと50年はこのまま耐えなければならないという、心積もりが出来たのだと思おう。

それに…バケモノである僕達に、人間の戦争がどんなに長く続こうが、大して関係ないか。

それよりも、スクルトの不思議な能力について知ることが出来たから、その方が僕にとっては重要だ。

後で聞いたところによると。

スクルトの未来視の能力が、赤だったり青だったりオレンジに見えるのは。

恐らく、スクルト自身が未来を見てしまったせいで、未来が変わってしまうせいなんじゃないか、とのこと。

小難しくてよく分からないが、スクルト曰く。

未来視の力を使って未来を見て、もしそれが自分にとって悪い未来だったら。

何としてもその未来を回避しようと、対策を立てるだろう?

例えば…これは極端な例え話だが。

一分後に自分が道端で転ぶ、という未来を見てしまったら。

一分前、つまり今現在の自分は、転ばないように対策するだろう。

その道を通らないとか、躓かないように注意深く歩くとか。

そうやって、一分後に自分が転ぶという未来を回避しようとする。

悪い未来が起きないように、現在を変えようとする。

その結果、悪い未来が回避され、別の未来がやって来ることになる。

現在を変えることで変えられる未来が、青。

現在を変えても変えられない未来が、赤。

多分、そういう認識で良いんだと思う。

というのは、全てスクルトの受け売りである。

如何せん、彼女以外にこのような能力を持っている人間がいないのだから、スクルトの解釈を信じるしかない。

「なかなか興味深い能力だね」

インチキ占い師、なんて心の中で馬鹿にしていた自分が恥ずかしい。

インチキどころか、本物の中の本物だった。

「…あなたって人は。気持ち悪いとは思わないの?」

スクルトは、若干呆れたようにそう聞いた。

「何が?」

「未来が見えるのよ?人の未来を言い当てることが出来るの。気持ち悪いでしょう?」

気持ち悪い?スクルトが?

それとも、スクルトの能力が?

…僕は、別にどうでも良いけど。
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