神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
どれほど時が経とうと、この呪いが解けることはない。

僕は未だに、先祖の犯した罪を…。

…魔物でありながら人間と結ばれたという罪を、償い続けている。

バケモノの姿でこの世に生まれてしまったこと、これ自体が僕の贖罪なのである。

未来永劫、魔物と人間が結ばれた恥を晒し続けることが…。

…しかし。

「なんだ、そんなことだったのね」

スクルトは安堵の微笑みさえ浮かべて、何でもないと言わんばかりにそう呟いた。

…え。

「あなたがあまりに重々しく『罪人』なんて言うものだから、もっと酷いことをしたんじゃないかと思ったわ。まぁ、それでも一緒に背負うといった言葉に嘘はないけど」

「え、いや…あの」

もっと酷いことって…。

…充分酷いことなのでは?

だって、未来永劫子々孫々、永久に伝わる呪いなんだよ?

これを重罪と呼ばずして、何と呼ぶのか…。

「まず、人間と魔物が結ばれることが罪だとは、私は思わないわ。種族が違っても、気持ちが通じ合えば…そういうこともあるでしょう」

スクルトはどうやら、マイノリティーに寛容なタイプであるらしい。

だからって、人間と魔物の愛を認めるとは。

最早、寛容という言葉を通り越している気がする。

「それに、あなたは何も悪くないじゃない」

「え?」

「罪を犯したのはあなたの先祖でしょ。あなたには関係ない。マシュリは何も悪いことなんてしてないじゃない」

「…」

これには、僕は思わず面食らってしまった。

いや、それは…。

…そう、なんだろうか?

生まれたときから、お前は罪人だ、お前の存在そのものが罪だと罵られ続けた。

そのせいだろうか。僕は無意識のうちに、先祖の犯した罪を自分の犯した罪だと思い込んでいた。

「あなたの罪じゃないわ」

スクルトはそう言って、僕の両手を包み込むようにして握った。

触るな、近寄るなと言われたことはあっても、手を握られるのは初めての経験で。

どうしたら良いのか分からず、僕はどぎまぎしてしまった。

「あなたは、何も悪いことなんてしてない。この世に存在してはいけないなんて思い込む必要もない」

幼い子供に言い聞かせるような、優しい口調だった。

「心配要らないわ。あなたには、ちゃんと居場所があるから」

…居場所。

冥界からも追い出され、現世でも行く宛のない僕に、一体何処に居場所があると…。

「僕の居場所って…?」

「ここよ。私の隣。ここがあなたの居場所」

そう言われて、僕はハッとした。

…スクルトの隣が、僕の居場所?

そんなこと言って良いのか。許されるのか?

だって僕は…バケモノで、半端者で、罪人で…。

こんな人間は、何処にも居場所なんてないと思っていた。

…それなのに。

「あなたはバケモノでも罪人でもない。人間よ。私達と同じ人間。孤独に苦しみ、疎外感に悩み、それでも何とか生きる望みを必死に探してる…。誰よりも人間らしい人間よ」

あまつさえこの僕を、人間と呼ぶなど。

何処からどう見ても、人間には見えないはずなのに。

スクルトは当たり前のように、僕を人間だと言ったのだ。
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