神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「大丈夫よ。あなたの未来は明るいわ。私もあなたと出会って、初めて気づいたんだもの」

気づいた?

「…何に?」

「世の中は案外、捨てたものじゃないってね」

スクルトは、微笑みながらそう言った。

…そう。そうか。

そんな風に思っても良いんだ。

それは許されることなんだ…。

「…君にそう言ってもらえるなんてね」

確かにそうだね。

君みたいな人に出会って、こんな風に孤独が埋められて。

こんな僕でも、人を愛することを。

その幸福を許されるのなら。

世の中は案外、捨てたものじゃないのかもしれない。

そう思ったとき、僕は初めて世界が色鮮かに見えた。

これまで僕にとってこの世界は、モノクロに等しかった。

だけど、今僕は初めて、世界はこんなに美しかったのだと知った。

スクルトみたいな人に出会えて、その人を愛して愛されて、共に明るい未来を望めるのなら…。

僕がこの世界に生まれてきたことも、あながち不幸ではなかったのかもしれない。

「…ありがとう、スクルト」

「いいえ、どういたしまして」

スクルトは僕達の未来が明るいと言った。

それは『赤』い未来で、保証された運命であると。

だから僕は、すっかり安心しきっていた。

罪人の身に許された初めての幸福を、一身に受け止め。

これからは希望を持って生きて良いんだ。僕も人並みの幸せを手に入れることが出来るんだ。

僕にもその権利があるんだ…。

そんな風に思い込んで、僕は自分が咎を負うべき存在であるということを忘れた。

…だけど、運命は。

僕に課せられた宿命は。

僕が贖罪の義務を勝手に放棄することを、決して許さなかった。
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