神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「あなたに殺される未来が見えていた。それでもマシュリさんの傍を離れなかった…」

「…何が言いたいの?」

…私が言いたいのは。

「スクルトさんは、あなたを憎んでなんかいない。あなたと一緒にいられて…スクルトさんもまた、幸せだったんじゃないですか?」

マシュリさんの手にかかって、殺されたとしても。

それでも悔いはないと思えるほどに、スクルトさんもまたあなたを深く愛していた。

そうじゃないんですか?

「あなたに殺される未来が見えたことも、マシュリさんには何も言わなかったのでしょう?」

未来を見て知っていたはずなのに、スクルトさんはマシュリさんに何も言わなかった。

運命の成り行きに任せて、何もせずに死を受け入れた…。

考えなしに、スクルトさんがそのような選択をしたとは思えない。

「…『青』く見えていただけなのかもしれない。変えられる未来だと思って…」

マシュリさんは、苦し紛れにそう言った。

分かりませんね、それは。スクルトさんに尋ねた訳じゃありませんから。

でも、そうだとしてもおかしい。

「変えられる未来なら、なおのこといくらでも対策出来たはずじゃないですか。マシュリさんの傍を離れてしまえば、それで解決です」

「…」

隣にいる人が自分を殺す未来が見えたのなら、その人から離れてしまえば、簡単に解決する。

あるいは…殺される前に殺す、でも良かったかもしれない。

それなのに、スクルトさんは逃げなかった。マシュリさんにその恐ろしい未来が見えたことも話さなかった。

ただ大人しく、やって来る運命を受け入れた。
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