神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「これは推測ですが…恐らく、スクルトさんがマシュリさんに殺される未来は『赤』…。つまり確定した運命だったのでしょう」

逃げても抵抗しても、自分が殺される運命は変わらない。

そんな恐ろしい未来が見えて、スクルトさんがしたことは何か?

マシュリさんにその未来を告げず、変わらずマシュリさんの傍に居続けることだった。

まるで、自分が殺される運命を受け入れたかのように。

「でも、スクルトさんはあなたに何も言わなかった。あなたの未来は明るいと、幸福な未来だと、そう仰ったんですよね」

「…嘘だ。何でそんなこと…。殺される未来が見えてたなら、何で…」

さぁ、何でなんでしょうね。

それはスクルトさんに聞いてみなければ分かりません。

でも、愛する人に殺される運命を知ったスクルトさんが、何故逃げようともせずマシュリさんの傍に居続けたのか。

その理由は、私にも理解出来る気がします。

もし私がスクルトさんと同じ立場だったら、きっと私も同じことを考えるでしょうから。

「自分を殺したその先で、愛する人に幸福な未来が待っているのだとしたら…」

スクルトさんはきっと、未来を見たのでしょう。

自分が殺される未来を。

そしてその先で、ずっとずっと先の未来で…。

いつかマシュリさんが自分の過去を克服して、スクルトさんの死を乗り越えて。

本当に自分の居場所を見つけて、幸せに生きている未来を。

愛する人に、そんな美しい未来を与えられるのなら。

自分の死が何だと言うのだ。

私がスクルトさんだとしても、きっと同じように考えたでしょう。

自分の命なんかより、自分の未来なんかより、大切なものがこの世にはある。

そして、マシュリさん。

あなたもまた、誰かにとって自分の命より大切な存在だったんです。

それを、スクルトさんが証明してくれたんですよ。

「あなたに殺されることなんて、惜しくも何ともなかったんでしょう」

それが異形の姿なのだとしても、自分の愛する人である事実は変わらない。

だからこそスクルトさんは、マシュリさんに殺される運命を受け入れたのでしょう。
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