神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
これらは全て、私の憶測でしかない。

スクルトさんが本当は何を考えていたかなんて、それはスクルトさんにしか分からない。

本当はマシュリさんの言う通り、スクルトさんはマシュリさんを憎んでいたのかもしれない。

恨みながら死んでいったのかもしれない。

でも、そんなことは今更、誰にも分からない。

生きている者に出来るのは、愛する人を信じ、その死を乗り越えて。

その人の分まで、幸福に生きることだけだ。

私だったらきっと、そうして欲しいと思うから。

きっとスクルトさんも、そう思ったんじゃないだろうか。

「でも…でもあのとき、スクルトは憎悪に歪んだ顔をして…」

マシュリさんは頭を抑えて、必死に声を絞り出した。

そうですか。…もしかしたら、そうだったのかもしれませんね。

でも、私にはそうは思えない。

「本当にそうですか?よく思い出してください…。あなたは罪悪感のあまり、自分の記憶を歪めているんじゃないでしょうか」

スクルトさんがマシュリさんを憎んでいたんじゃない。

マシュリさん自身が、スクルトさんに憎まれたい、恨まれたいと思って。

最期の瞬間、スクルトさんが憎しみに歪んだ顔をしていたと思い込んでいるのでは?

許されるより、憎まれる方が遥かに楽だから。

私は、マシュリさんに都合良く考え過ぎだろうか?

本当にスクルトさんは、マシュリさんの言う通り、マシュリさんを恨んでいたのだろうか?

分からない。

分からないけど、そうであって欲しくないと思う。

愛し合っていた者同士が、最後は憎み合って死ぬなんて。

そんなの…そんなの、あまりにも悲し過ぎるじゃないですか。

スクルトさんが死んだ事実は変わらない。

それならせめて、その思い出だけは美しいものであって欲しい。

綺麗事かもしれないけど、私はそう思うのだ。
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