神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
――――――…その頃、イーニシュフェルト魔導学院では。

ナジュの口から、とんでもない事実が伝えられていた。




「魔物…!?それがシュニィを攫った犯人だって言うのか?」

「えぇ、恐らくは」

「…」

俺とシルナは、驚愕のあまり互いに顔を見合わせた。

…あまりに突拍子もない話が出てきて、言葉も出ないが。
 
しかし…ナジュの言う通り、犯人が冥界の魔物なのだと仮定したら…。

いくつも辻褄の合うことが出てくる。

「エリュティア君がいくら探しても見つからないのは、もしかしてそのせい…?」

シルナも気づいたようだな。

俺も思ったよ。

「そう考えたら…辻褄は合うな」

「…だよね…」

魔物の魔力は、人間のそれとは大きく異なっている。

現世の生き物ではない魔物なら、エリュティアが辿れる「痕跡」が何ひとつ見つからなかった理由も、説明がつく。

仮にも聖魔騎士団副団長を連れ去ったのだから、並みの相手じゃないだろうとは思っていたが。

誘拐犯が魔物なのだとしたら、シュニィを連れ去ることが出来たのも頷ける。

…けれども…そうなると、いくつか疑問が生まれる。

「何でそう言い切れる?何か根拠があるんだろう?」

ナジュだって、言って良い冗談の良し悪しは分かるだろう。

確信を持って犯人を特定出来たのは、何か根拠があるからのはずだ。

すると。

「えぇ、勿論根拠はあります。…と言っても、僕が見つけた訳じゃないんですが」

「…えっと、ナジュ君。それはどういうこと?」

「はい。実は昨夜、リリスが…」

「ちょっと待て。ストップ」

説明しようとしたナジュに、俺は一時ストップを申し入れた。

説明してくれるのは有り難いんだが。

「俺達だけに話して良いのか?イレースや天音達も呼んだ方が…」

あいつらだって真実を知りたがっているはずだ。

犯人が分かったのなら、イレース達も呼んで、皆の前で話すべきでは?

…と、思ったが。

「いえ、イレースさん達は呼ばず、学院長と羽久さんだけに話すつもりなんです」

ナジュは軽く首を振って、そう言った。

俺とシルナだけに…?

わざわざ授業中の時間帯を選んでやって来たのは、そのせいか。

さすがに授業中なら、いつもは壁や床に潜んでいる令月達も、盗み聞き出来ないだろうと。

そこまで念を入れて、俺とシルナだけに話しに来たってことか…。

…待ち望んでいた犯人の情報だが、本当に聞いても大丈夫なのか不安になってくるな。
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