神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「済みません。イレースさん達にも話したいんですけど、如何せんこの話、あくまで僕の推測なんで」

確定情報じゃないってことか。

そういうことなら…下手に他の皆にも話して、余計な心配をかけるのは本意じゃないな。

…仕方ない。

「…分かった。じゃあ、ここだけの話ってことで」

と、シルナが言った。

ここだけの話か…。

…今更だが、その話、俺も聞いて良いのだろうか?

「だって羽久さん、出ていってくださいって言ったって、学院長の傍を離れる気はないんでしょう?」

俺の心を読んだナジュが、そう尋ねた。

そうだな。

「あぁ。悪いけどな」

「だったら、仕方ないので羽久さんも聞いていってください。…他の人には、ひとまず内緒ってことで」

「分かったよ」

申し訳ないが、俺もシルナと一緒に聞かせてもらうぞ。

…ナジュが見つけた、シュニィ誘拐犯の犯人の話を。

「…で、さっき言いかけた…リリスが何だって?」

「あぁ、はい。昨夜…シュニィさんの部屋を訪ねた後のことです。あの日の夜、いつも通りリリスとイチャイチャしに精神世界に行ったら…」

余計なことまで言わんで良い。

「リリスが気になることを言ってたんです。僕達が獣と戦おうとしてるって」

…獣?

獣って…。何かの比喩か?

まさかシュニィは、怪獣のバケモノに拐われた訳じゃあるまい?

「獣、獣…。…何だろうね?」

シルナも首を傾げていた。

その情報だけじゃ分からんな。

「それから、『罪人』とも言ってました。…僕、魔物のことはよく分かんないんですけど、獣で罪人な魔物っているんですか?」

…そう聞かれても。

「お前、魔物が恋人の癖に、魔物のことよく分からないって…」

「済みません。僕リリスにしか興味ないんで」

清々しい奴だな、お前は。

ナジュにも分からないんなら、俺に分かるはずがない。

ナジュ以上に、俺は魔物のことなんて分からないからな。

昨日の昼間、ナジュが獣臭いとか言っていたが。

あれはもしかして、魔物の匂いなのだろうか…?

…魔物って、匂いあんの?

「シルナ…。お前は知ってるか?」

恐らくこの三人の中で、一番魔物について詳しいであろうシルナに、意見を求めた。

シルナはベルフェゴールのことも知ってたしな。何か心当たりがあるかも。

「獣…。冥界で獣って言ったら…ユニコーンとか?グリフォンとか…。あとは…ヘルハウンド?」

色々思い当たる節があるようだ。

むしろ、思い当たる候補が多過ぎて、犯人を絞れない。

「罪人なんだそうだぞ」

「罪人…罪人ってのはよく分からないね…。そんな魔物、聞いたことないよ」

…シルナでも覚えはない、か。

普通に考えたら意味分からないよな。罪人の獣?獣の罪人?

それとも、獣とか罪人とかいうのは比喩で、正体は別物…という可能性もある。

「ナジュ。リリスは他に何か言ってたか?」

「僕にもよく分からないんです。詳しく聞いてみたんですけど、教えてくれなくて…」

「…」

教えてくれなかった?リリスが?

それは珍しいな。

ナジュが頼んでも教えてくれなかったなんて。

こいつら、毎晩鬱陶しいくらい仲良しだから、聞けば何でも教えてくれるものだと思ってた。

「失礼ですね羽久さん。親しき仲にも礼儀ありですよ」

「そりゃ悪かったな」

まさか、隙あらば人の心を読む奴から、「礼儀」なんて言葉を聞くとはな。

説得力が段違いだよ。
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