神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
…とはいえ。

ナジュが詳しく聞いても教えてくれなかったってことは。

それだけ…その魔物が危険だということだろう。

冥界の女王であるリリスが、ナジュに関わらないよう忠告するくらいに。

これだけでも頭が痛くなってくる。

「どうやらシュニィを攫ったのは、随分な大物のようだな」

「聖魔騎士団副団長を誘拐するんだから、そりゃ大物ですよ」

まぁ、そうだな。

並みの神経で出来ることじゃない。

何せシュニィを誘拐したら、すなわち、あのアトラスを敵に回すことになる。

そんな恐ろしい真似、俺でも御免だからな。

「魔物、獣で罪人。そして、リリスちゃんが警告するほどの大物…」

シルナは、何やらぶつぶつと呟いていた。

少しずつヒントが絞り込めてきたが、思い当たる人物はいるだろうか。

シュニィを誘拐して得をするような魔物が、果たして存在するのか?

「犯人が魔物だとしても、一体何が目的なんだろうな?」

「…さて、動機は今のところ、全く不明ですね」

だよな。

魔物がシュニィを攫って、何か良いことでもあるのか。

吐月みたいな、魔物にとっての「人気者」ならともかく。

シュニィは召喚魔導師でもないのに。

「恐らく、実行犯と指示した犯人は別なんだよ」

と、シルナは推測した。

「何?」

「魔物が単体で現世に来ることは凄く珍しいから、多分魔導師さんと契約した魔物が、契約主の魔導師さんに指示されて、シュニィちゃんを誘拐したんじゃないかな」

…成程。

つまりシュニィを連れて行ったのは、何処ぞの魔物で。

誘拐計画を企て、魔物に指示して誘拐させた首謀者は、その魔物の契約者。

なら、実行犯の魔物を取っ捕まえても意味ないな。

首謀者の方を捕まえないことには、俺達は枕を高くして寝られない。

…しかし。

「…犯人が魔物だって分かったのは良いとして、結局それからどうすれば良いんだ?」

「それは…」

犯人が魔物らしい。それは分かった。

非常に有益な情報だってことも分かる。

が、それが分かったとして、現時点で俺達に何が出来る?

悔しいが、出来ることが見つからない。

今のところ、リリスが話してくれた断片的な情報では、魔物の種類も絞り込めず。

それに、シュニィを攫う指示を出したであろう召喚魔導師にも、心当たりがない…。

「…シュニィちゃんに恨みを持っている可能性のある召喚魔導師がいないかどうか、ジュリス君に調べてもらう…とか?」

と、シルナ。

まぁ、出来ることと言ったらそのくらいか。

あのシュニィが、召喚魔導師であれ何であれ、他人に恨みを持たれるとは思えないんだがな。

「あとは…さっきナジュ君が言ったヒントから、魔物の種類を絞り込みたいね」

獣で罪人で大物、だっけ?

アバウト過ぎて、ヒントと呼ぶにはあまりに心許ない。

…が、分からないらって、手をこまねいているよりはマシか。

「よし、分かった…。犯人の魔物探し、俺とシルナでやるよ」

実行犯の魔物の正体が分かったら、その契約者、そしてシュニィの居場所にも繋がるかもしれない。

とにかく今は、少しでもやれることを探して、全力で取り組むだけだ。

それが例え、シュニィの行方の手がかりに繋がらなかったとしても。

何度も言うが、何も出来ずに手をこまねいているよりマシだから。
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