神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
――――――…昨日に引き続いて、突然イーニシュフェルト魔導学院から、シルナ・エインリーと羽久・グラスフィアがやって来て。

彼らが言うことには、シュニィを誘拐した犯人は魔物じゃないか、という話だ。

少しでも犯人の手がかりに近づいたのは朗報だが。

まさか、魔物が犯人とは。

そりゃ見つからない訳だよ。

具体的にどんな魔物が、何の目的で犯行に及んだのか、その詳細はまだ何も分かっていない。

が、暗礁に乗り上げていたシュニィ捜索が、ようやく一歩進んだ。

これは素直に喜んで良いだろう。

あとは何処にいるのか分かれば、もっと良かったんだが。

それはさすがに、贅沢な悩みというものだ。

…に、しても。

…魔物、ねぇ…。

俺は再度シュニィの執務室にやって来て、その部屋の中をじっと見渡した。

…ここに魔物が現れたのか。本当に?

魔物が現世に現れたってことは、恐らく契約者の指示だろう。

本当に、魔物がシュニィを連れ去った犯人なのだとしたら。

全ては、シュニィに恨みを持つ召喚魔導師の犯行…という仮説が、一番しっくり来る。

…しっくり来る…のだが。

何故だろう?どうにも色々なことが腑に落ちない…と言うか。

理屈では分かってるんだが、本能って言うか…。

自分の中の第六感的なものが、妙にざわついてるんだよな。

人生経験上、こういう直感は大事にした方が吉である。

…とは言っても、根拠がある訳ではない。

お前の気の所為だろと言われたら、言い返す言葉もない。

獣…罪人…魔物…ねぇ。

キーワードは色々出てきているが、どうにもそれが繋がらない。

生憎、俺にもそんな魔物の情報は覚えがない。
 
従って、この妙な胸騒ぎの正体も依然として不明である。

「…気の所為、だったら良いんだけどな…」

と、呟いたそのとき。

「何が?」

いつの間にか、ベリクリーデがシュニィの部屋にやって来ていたらしく。

俺の独り言を聞いたのか、こてんと首を傾げていた。
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